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| 蛇の王 ナーガ・ラージ |
なかなかに珍しい19世紀のインドを舞台にしたお話です。 ”蛇の王”というのは「タグ」と呼ばれる殺人集団のとある首領の尊称で、彼の半生が物語りの主軸になってます。
「タグ」というのはどういう集団かといいますと、「この世にいなくてもいい人間を殺して、悪い魂を解放する、善行を行う集団」というのが彼らタグの定義です。 つまり、彼らにとっては殺人はとは悪なる魂の解放であり、決して悪いことではないのです。 世の中には殺すべき人間というのがいて、そういう人間を放置しておく方が悪行である。 殺人によって魂を再び輪廻転生の輪の中へ還すことこそ、神の意に適うものだ、と考えているのです。
今の日本人の倫理観ではとうてい受け入れずらい論理なのですが、これが読み進めていくうちに徐々に腑に落ちてくるから不思議なのです。
当時のインドは、イギリスによる搾取が始まり各地で植民地化が進み出した時代です。 インドにやってきたら彼らはキリスト教的正義心をもとにタグの殲滅に乗り出します。 曰く、邪悪な殺人集団を放逐し文化的更正をインドの大地に与える、というお題目をもとに彼らはタグを次々と検挙していきます。
一見、このイギリス人たちの行動は理にも情にも適っているように見えるのですが、実際には、イギリスは己が利権のためのみインドの富を貪り、彼の地にはアヘンと暴力しか与えていません。 それに大して、タグは殺人という不条理な行為を続けるものの、イギリス人に対して反抗を企て、インドの地を守ろうとします。
一体、悪とは何を指すのだろうか? 相矛盾する二つの存在の前で、読者ははたと立ち止まってしまうことでしょう。 価値観も文化的背景も全く違う二つの視点から、浮かび上がる個々の正義と悪。 これがこの作品の面白いところです。
東郷さんというと、割とコミカルで笑える作品が多いのですが、今回は非常に骨太で読み応えのある作品になっています。 難解で粘りのあるインド的世界をさらりと日本人にも理解しやすい世界に再構築している筆致はさすがです。
今までインドってあまりイメージがつかめなかったのですが、この作品を読んで少し理解できる部分がありました。 近いようで遠いアジアの友人。 インドを知らない人にこそ楽しめる作品なのかもしれません。
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